
香川県(前)滝宮小学校校 家庭科担当 杣愛子
『弁当の日』によせて
小学校5年生になると、家庭科の勉強が始まる。滝宮小学校では,『弁当の日』も始まる。
4月、5年生の家庭科担当に決まった私は悩んだ。いったいどう指導すれば、6ヵ月後に,子どもたちが自分一人でお弁当を作れるようになるのだろうか。
わたし自身の小学生時代を思い出してみると、調理実習といえば、失敗するのが怖くて友達がするのを横から見ていることが多かった。今の子どもたちの中にも、私と同じように,見ているだけとか洗い物や片付けだけという子がいる。そういう子は,家でも料理をしたことがないのだろう。そんな子にこそ、指導が必要なのではないか。
指導の方針が決まった。グループで協力し合って調理をするのではなく、できる限り一人一人が自分のものを自分で作るようにしよう。
1学期初めての調理実習は、ゆで野菜のサラダ。1つの調理台に4人。2人でコンロ1、まな板1、包丁2を用意した。ゆでるのは2人で協力するが、自分で食べる野菜は自分で切る。切った野菜の盛り付けも自分。ドレッシングも自分で作る。一人一人が自分で作るから,自分流のドレッシングを工夫することが可能になった。実習当日は,一つとして同じドレッシングはなかった。味見をし合い,レシピを教え合った。「今度は、○○さんのレシピで作ってみよう。」とつぶやく子もでてきた。調理の楽しさが少し体験できたようだ。
2学期は、栄養士の先生にも協力していただいて、栄養の勉強からスタート。1学期に学習したゆで野菜のサラダに卵料理を加えると、栄養のバランスの取れたお弁当ができることを確認し、卵料理の実習をした。もちろん一人一人が自分で調理した。お弁当作りでは,大活躍するであろうフライパンの使い方も練習した。
いよいよ、初めての『弁当の日』。子どもたちは、どんなお弁当を作ってくるのだろうか。自分で作れただろうか。私の不安をよそに、子どもたちは,どの子も、ニコニコ顔でお弁当のふたをとってみせた。そして、「自分で作ったよ。」と誇らしげに胸を張った。
その後、何回かの調理実習と『弁当の日』を体験し、卒業前の1月には、一人一人が郷土料理や我が家の自慢料理作りに挑戦することにした。子どもたちが大きくなって、県外あるいは外国に行ったとき、自分が生まれ育った土地や家の自慢料理を上手に作ることができたなら、それは、子どもたちにとって大きな財産になると考えた。それに、『弁当の日』で、調理に親しんできた子どもたちには一人で作れるだけの力がついていると判断した。さらに、香川県の代表的な郷土料理の「あんもち雑煮」や「しっぽくうどん」「うちこみうどん」は、みそ汁の応用で作れそうだった。「まんばのけんちゃん」もゆでた野菜を炒り煮するだけだからそんなに難しくない。冬休みの宿題で、自分にできる料理を練習してくれば、大丈夫だと思った。
冬休み、お母さんだけでなくお祖母ちゃんに作り方を教えてもらったという子も多く、郷土料理作や我が家の自慢料理作りは、家族の交流に一役買っていたようだ。
そして、実習当日、「あんもち雑煮」「しっぽくうどん」「打ち込みうどん」「まんばのけんちゃん」「我が家自慢のたまごやき」「自家製レタスの炒め物」・・いろいろな力作がそろった。中には、家でうどん粉を練ってきて、実習時間にうどんを打ってゆがき「釜玉うどん」を作った子がいたのにはびっくり。そこには,成長し,自信に満ちた子どもたちの姿があった。『弁当の日』がなかったら,見ることのできなかった笑顔があった。
「子どもたちは力を持っている。やればできる。」そんなことを再確認させてくれた『弁当の日』であった。