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会報連載記事

フェアトレード(22) ネッスル社のフェアトレードへの参入問題

拓殖大学国際開発学部 長坂寿久

フェアトレードに大企業も参入するようになった。国際的コーヒーショップのスターバックス・コーヒーはすでに参入しているが、ネッスル社も最近参入を表明した。インスタント・コーヒーへの参入で、名称は「ネスカフェ・パートナーズのブレンド・フェアトレード」。フェアトレードラベル(FLO)の商標を付けて売るようである。
こうした巨大企業の参入に対して、さまざまな議論が起こっている。イギリスのフェアトレード誌『ニューコンシューマー』によると、このインスタント・コーヒーは、エルサルバドルとエチオピアの農家の5つの共同組合から購入したもので、100グラム当たり2.69ポンドで売られるという。

ネッスルのような多国籍企業はコーヒーの国際価格に影響を与えるに十分なコーヒーを買い付けており、近年は生産コスト以下で農家から買い付けている。しかし、この同社のフェアトレード・コーヒーの販売量は500〜1000袋程の使用に過ぎないだろう、と報じている。つまり、同社のコーヒーの取扱量全体からみるとごくごくわずかに過ぎない。しかし、同社はフェアトレード商品を扱って開発途上国の自立支援に協力しているとCSR(企業の社会的責任)レポートに書くであろう。

そしてもう一つ問題がある。コーヒーを扱う大企業のフェアトレードへの参入は、コーヒーを扱うフェアトレードNGOを痛めつける恐れがある。巨大企業にとってフェアトレード・コーヒーを仕入れるための高めのコストは、国際市場での低価格でのコーヒー取引の中でみると微小に過ぎない。ほんの少量を高めで仕入れたとしても、全体量の中でこのコストは簡単に解消されうる。
これに対して、フェアトレードNGOにとっては、扱っているコーヒーは全量がフェアトレード・コーヒーであるため、吸収する余地はない。つまり、巨大コーヒーメーカーのフェアトレード市場への参入は、NGOをコスト的に疲弊させることになるのではないかという懸念である。

ネッスル社のフェアトレードへの参入が議論の的となるには、実は理由がある。ネッスルは世界のNGOからはどうも評判が悪いのである。同社は長年ベビーフードの分野でNGOと争ってきたからである。これは同社がNGOの主張をかつてはほとんど無視、あるいは対応を間違えてきたからでもあるが、そのことがいまだに尾を引いている。
1960年代に同社は、開発途上国の貧しい母親に乳児用粉ミルクを「母乳に優るもの」と広告して販売した。その時、衛生上の注意や分量など必要な注意事項を記載しなかった。
また、記載してあっても字が読めない母親にとっては、同じことだった。その結果、多くの乳幼児が死亡したという、古いが有名なケースがある。

このケースでは、世界中のNGOが連携して反ネッスル運動を行い、WHOもネッスル社の広告は誤りであるとの決議を行った。以後、こうした広告や製品ラベルの使用は国際的に禁止されることになった。この事件を経て、現在では、ユニセフは離乳食(baby formula)の包装物(ラベルなどを含む)に、健康そうな太った赤ちゃんの絵をつけるのを禁じている。これは、開発途上国で字があまり読めない母親が離乳食即赤ちゃんの健康というふうに考えて、赤ちゃんを母乳で育てるのを止めることがないようにするのが目的である。

また、フェアトレード問題では、OXFAM を中心として、フェアトレードNGOは、ネッスルをはじめ、クラフト、サラリー等5企業(世界のコーヒー総取扱量の80%を占める)を「コーヒー農場の農民への報酬が公平(フェア)ではない」と訴えてきた。コーヒー業界の利益配分は不公平であり、コーヒー農場に十分還元されていないという理由である。これら5社の取引の仕方に対抗するために、NGOは「もう一つ」の取引形態としてフェアトレード運動を起こしたといえる経緯がある。

こうしたNGOの運動に対して、例えばクラフト社はOXFAMと話し合い、コーヒー農場の農民に対して代替収入(例えば他の作物への転換)を提案し、その教育を行なったりした。この代替収入へ転換するための教育事業は企業には直接的利益はないが、供給過剰のコーヒー市場の是正に貢献すると共に、農家は代替収入を得ることで安定した生活が可能となる。コーヒー企業はNGOとの話し合いを通してこうした対応をしてきたのだが、ネッスルはそこでも対応が遅れていたようである。

他方で、今回のネッスルの参入は、それだけフェアトレード市場が、市場としての広がりをみせてきたことを意味するであろう。ネッスルの参入は、単にフェアトレード市場の拡大に対応した同社の市場拡大策なのか、あるいは小規模農家を支援するというフェアトレード活動への純粋な表明なのだろうか、と同誌は問いかけている。

次号へつづく