
第3世界ショップ事務局長 竹広隆一
1985年、第3世界ショップが立ち上げた日本で最初のフェアトレード事業は、ちょっと変った始まり方でした。
創業者の片岡勝が銀行員を脱サラして、数人の仲間と集まり、自由な個人の立場で新しい視点を世の中に投げかけていこうという「もうひとつの通信社」潟vレス・オールターナティブを立ち上げました。自分らしい生き方、今までの自分とは違う新しい生き方を目指したい人をつないで広げることがテーマでした。
それと前後して出かけた旅先のノルウェーで、ちょっと変った店に出会いました。ちょうどクリスマスを控えて混みあう店内には、ビラがたくさん張ってあり、キリスト教の教会のような、何か違う雰囲気。子供連れの女性客に「安いからこんなに人が入るんですか?」と聞いてみると、呆気に取られた顔で「私はこの品物を買うことで友達にクリスマスプレゼントをするだけでなく、南の国の人に仕事を作り出すプレゼントをしたいのです」と言われました。それを聞いて共感し「なるほど、そういう発想か、これは新しい」と思い、また日常の買い物を南北問題解決の仕組みにしてしまったその着想に「やられた」とも感じました。
それが第3世界ショップを始めるきっかけでした。やりたいこと、なりたい自分を正直に実践して暮らしの問題解決につなげようと決心したのです。まずはアフリカの農家の仕事作りにと、その店で貰ったリストにあったオランダのフェアトレード団体に連絡し、コーヒーの輸入販売から始めました。
私たちが先鞭をつけてから20年。国内で多くの個性あるフェアトレード事業が立ち上がり、共感の輪が次第に広がってきました。
90年代にバブルが崩壊して、国内の問題にも取り組み始めました。たとえば、地域でニーズがありながら、担保がないために事業プランに融資が受けて来られない人、そのほとんどが家庭の主婦などの女性ですが、生活の視点から発想する人たち、地域で必要とされるサービスを考案し実践しようとする人たちの応援を始めました。金融で地域への活力を供給するはずの銀行が、本物の事業を見抜く目利きを失い、本当に必要とされるこれからの事業を応援しようとしないことに危機感を抱き、何とかしなければと、即実践したのです。
こうして、天然酵母のパンや台所の廃油で作る石?事業など、当時の金融機関ならまず貸さないような事業のための起業資金を供給しました。しかも従来の土地担保はとらず、夢作文という志だけを担保に融資しました。その他、事業計画や資金繰りなどの経営に必要なノウハウを教えるWWBジャパン(女性のための世界銀行日本支部)の「ビジネススクール」を始め、地方自治体からの要請で地盤沈下が進む商店街を活性化する事業や、学生などの若者起業支援、アジアからの留学生の起業支援、起業オークションなど、今ではよく聞かれる地域再生の先例を実践してきました。自分の働き方や生きかたを変えて、自分らしく生きる市民を応援し、輪を広げようというのがいつも共通してきたテーマです。
自由な発想でいろんなことにチャレンジするのを大事にしています。フェアトレードでいえば、モノを買うだけでは十分な問題、例えばインフラの不足や技術の不足で品質が得られないときは、生産ライン作りや技術協力のプロジェクトを行いました。メキシコやペルーでは、生産者と知恵を出し合い、我々が資金を出し、生産者が人手を出して、コンクリートのコーヒー乾燥テラスを作ったり、省水型の果肉除去機を導入したりと、買うこと以外でも応援しました。
最近はフェアトレードよりもコンセプトを広げた「コミュニティトレード」を提唱しています。中米のマヤ地域ではもともとそこになかったコーヒーが作られますが、そこには、とうもろこしやカカオ、とうがらしなどを何千年もかけてすでに栽培化してきた人々が住んでいます。それが今では世界に広がり、インドのカレーや韓国のキムチのように世界の食文化に大きな影響を与えたのですが、そんな彼らの眠れる知恵に注目しました。
マヤ地域はカカオの原産地域でもあります。マヤ文明の時代、彼らはカカオから豆を取り出し、それを焙煎し、粉に挽いて、水に溶かして飲んでいましたが、マヤ地域と全く交流がなかったトルコでも、コーヒー豆を焙煎し、粉に挽いてお湯に溶かして飲む方法が似たような発想で考案されました。私は、ここにも食の知恵を見た気がしました。
マヤ地域がコーヒーの単なる農耕上の栽培適地であるだけでなく、そこから何かを創造する資質があるはずだと考えたのです。実際、現地ではすでに、国や生産者団体が個性的なコーヒー作りを応援しようと、今までなかった産地概念を作っています。マスマッチングの従来の市場は、個々の農園の栽培方法や小さな地域の価値を評価しない仕組みなので、これは従来の流通に頼らず、独自に販売していこうとする意思の表明でもあります。
地域の食の系譜をそのように見れば、遠い記憶に埋もれつつある知恵がありそうです。私たちの利用の現場と彼らの生産現場という異なる地域の交差点で、世界を「地域」の視点で見直せば、知恵の交換が生まれて問題解決と創造に?がるだろう、デフレの中でも価値で支持されるモノが作れるだろうと、新たなチャレンジをしています。
コーヒーの味が飲み比べて発見できたり、生活場面で飲み分けられたらいいんじゃないか。現地で知り合ったマヤ地域の4つの生産者と提携して、早速「マヤ・クワトロ」コーヒー、「マヤ・ドリップ」コーヒーを開発しました。地域の知恵の交換でお互いが元気になる、そのような取り組みを「コミュニティートレード」と名付けて、推進しています。