
早苗 康子
はじめに
コンシャス・コンシューマーは1997年にわたくしが個人ではじめたフェアトレード事業です。フェアトレードの認知が広がり市場が拡大する中、規模を大きくせずに今も一人で続けています。
フェアトレードをはじめたきっかけは、国際協力NGOに勤めていた時に感じた疑問でした。善意のNGOがせっかく海外で良い活動をしていても、わたしたち消費者が現地の労働力や資源を使い捨てにするようなライフスタイルを続けたら、より多くの迷惑を途上国にかけてしまうのではないか。そこで、途上国と消費者の関係を考え直すフェアトレードを始めようと思ったのです。
フェアトレードのビーズ
現在、主に扱っているフェアトレード品は、インドのタラプロジェクトというNGOから仕入れているガラスビーズです。表面に美しい模様がほどこされたビーズは、北インドのデリーから東南へ200qほど行った村で作られています。ここはアンタッチャブル(カーストのさらに下に位置づけられる一番身分の低い人たち。穢れるので触ってはいけないという意味)の人々が暮らす集落で、先祖代々ビーズ作りを生業としています。
インドでは一般にビーズがどのように流通するかというと、ベナレスに大きな商社があってほぼ独占的にビーズの輸出入を取仕切っており、小さな生産者はブローカーを通してその商社に卸すのが習わしとなっています。しかし買い上げ価格は低く、ときには支払いが踏み倒されることもあります。職人たちは日が昇ってから暮れるまでひたすらビーズを作るという生活を送っているにもかかわらず、暮らしを支えるのにやっとの収入しか得ることができません。
そこでフェアトレードでは、商社ではなくインドのタラプロジェクトというNPOを通じてビーズを取引しています。タラプロジェクトはインドの職人たちの生活を向上させるために設立された団体です。生産者から買い上げた価格に事務経費など一定の上乗せをした価格で輸出しますが、商社が取引した場合にくらべて25%ほど多めの収入が生産者の元に入ります。タラプロジェクトではその他にスラム地域での青空学校を開いたり、児童労働に携わる子どもたちに職業訓練の機会を与えたりといった社会活動にも力をいれています。しかもその費用は政府・財団からの寄付を受けることなく、フェアトレードの売上げの中から捻出されています。
毎日の生活のことでいっぱいいっぱいの生産者とやりとりをするのは、正直言って難しいことも多くあります。日本の消費者がより品質が高くデザイン製の優れたビーズを求めるのに対して、生産者はひたすら手早くたくさん作ることによって収入を確保しようとします。付加価値を高めるという発想ができないのです。底辺で生きて来た人たちの悲しい悪循環です。
ビーズは完成品ではなくパーツですので、消費者がそれを買って自分でアクセサリーを作って完成させるという意味で、生産者と消費者を結びつけるユニークな商品だと思っています。日本でビーズがどのように利用されているのか生産者に理解してもらってニーズの高いビーズを作ってもらい、それによって生産者の暮らしが向上して行く、そんな良い循環を作りたいというのが夢です。
普通の流通はアンフェアか?
ところで、このようにフェアトレードをやっていくなかで自分の中で大きくなる疑問がありました。それは、一般の流通ではどれくらいアンフェアなことが存在するのだろうかということでした。実際には流通についてそれほど知らないことに気付いたのです。
そこで、同じような疑問を持つ仲間を10人ほど集めて、自主勉強会を始めました。身近にある商品、例えば缶コーヒー、シューズ、携帯電話などをとり上げて、その原料調達から生産、流通の過程で、労働者や環境にどのような影響を与えているかを調べたのです。
その中から思いもしなかった事実がいろいろと浮かび上がってきました。まずは児童労働の蔓延です。親の賃金が少なすぎるために仕事の手伝いを余儀なくされ、教育を受ける機会を奪われている子どもたちが無数にいます。また、ブランド産業の裏では非常な低賃金で酷使される女性たちの姿もありました。
日本人は一人あたり年間に15トンもの物質を消費しています。近年では物価も安くなり、日本人はかつてない豊かな暮らしをエンジョイできるようになっています。しかしその裏には不公平といわざるを得ない実態があり、フェアトレードの必要性を強く実感する結果となりました。
この勉強会の成果は、「地球買いモノ白書」(どこからどこへ研究会著)としてコモンズ社から刊行されています(1,365円)。イラストを追いながら理解できるような編集にして、中高生の勉強にも使ってもらえるような作りになっています。ぜひご一読いただければ幸いです。