
拓殖大学国際開発学部教授 長坂寿久
フェアトレード運動は曲がり角にある。先進国ではフェアトレード運動が認知度を上げるに従い、フェアトレード団体の国際的な組織であるIFAT(国際オルタナティブトレード連盟)やFLO(国際フェアトレードラベル機構)は、生産者と一体となって活動している現場型のNGOよりも、国際的に大きな開発協力NGOの活躍の場となり、現場の経験に応じて柔軟に対応していく考え方よりも「原理原則」がより大きな声で語られるようになり、現場から離れているという声が聞かれるようになった。また、IFATによる生産者や販売者の評価はフェアトレード団体が多くなるに従い一層難しくなり、評価の頻度も少なくなっているという指摘もある。
さらに、典型的な商品であるコーヒーは、国際価格が長期に低迷しており、IFATなどが指示する前渡し金や引取価格基準は、小さいNGOにとっては実行はますます困難になっているし、むしろ生産者のために単純な前渡し金制度などは自立性を阻害しかえって問題もあると指摘するNGOもある。
日本のフェアトレード団体は開発協力活動を通じて生産者と出会い、それを支援するためにフェアトレードへ展開してきたものが多く、また国際的にみると小さな団体が多いため、IFATなどの国際基準は厳しくかつ原則論的であり、さらに総会などはお祭騒ぎのような感じとなっていて、参加意欲を削がれるということになる。
一方、フェアトレードの認知度が高まるに従い、大企業も例えばフェアトレード・コーヒーに参入してくるようになった。焙煎企業やスターバックスなどのコーヒーショップやスーバーなどの大企業は、企業の社会的責任(CSR)?社会責任投資(SRI)が論じられるにともない、社会貢献の一環としてフェアトレード商品を扱うようになった。
こうした場合、大手の焙煎企業は取扱高のごく小さな一部をフェアトレード・コーヒーとして扱うことによって「社会貢献」の顔ができ、フェアトレード・ビジネスに参入できる。大企業はフェアトレード部分での損やリスクは全体の中に分散できるため、実際の小さなNGOなどはますます太刀打ちできなくなる。フェアトレード・コーヒーの取扱高は大企業の参入で増えるが、小さなNGOが手作りで造り上げてきたコーヒー生産者との関係による取引はますます縮小の運命をたどることになる。しかし、だからいって大企業がフェアトレード・コーヒーを扱うことをよくないとは言えないであろう。
フェアトレードは消費者に買ってもらうという意味ではビジネスだが、市場経済の中で取り残された途上国の生産者の自立を支援する活動であるという点では、ビジネスではなく社会運動である。大企業の参入によってフェアトレードが普及していくのは一方ではいいこととはいえるが、それによって小さな生産者と一体となって活動しているフェアトレード団体の取引が立ちいかなくなるのは、市場経済社会とは違って本末転倒である。
日本のフェアトレードNGOの中には、自分たちの団体の駐在員がいるところ、あるいは絶えず現地に赴き緊密な連携の下で現地生産者と直接関係を深められる範囲にフェアトレードを留めるという見識をもって活動しているもの(シャプラニール=市民による海外協力の会やネパリ・バザーロなど)もあるが、他方では、フェアトレード・ショップの中には、今まではフェアトレード・コーヒーなどを扱っていたが、値段が高く、新商品への商品(味)開発が継続的にスムースでないため止めてしまって、今は健康食品店へと簡単に店替えになっているところもある。では、日本のフェアトレードはこれから何処へいけばいいのだろうか。